「アンリーヌ様、ご懐妊です」 これは…お義父様もノービア様も喜んでくれるかもしれませんが、なにしろ結婚式の前での妊娠です。 王家がこれでいいのでしょうか?「いいのだ!アンリーヌ!よくやったな、二人とも‼くぅ~っ、これで私もおじい様というやつになるのだな?もう各国重鎮が揃った時に「カインド帝国の皇帝はまだお若いから、孫の可愛らしさがわからないのでしょうね」とか馬鹿にされないぞ。そしてさぞかし可愛いのだろうな。なにしろ、麗しいアンリーヌと我が息子の子供だからな。こうしてはいられない。急ぎ子供部屋の支度を!」 子供部屋って…気が早すぎます。自分の子も麗しいとか言っちゃうのは食堂にある肖像画のお義母様にノービア様が似ているからでしょうか?「ノービア様はお義母様にも似ていらっしゃいますよね。陛下にも似てらっしゃるんですよ。陛下自身は気づいていないのかしら?」「アンリはただ今は体を労わるんだっ。ああ、俺に出来ることはないのだろうか?」 うろたえてらっしゃるノービア様も素敵です。「ノービア様、アンリーヌ様に今必要なのは休息です。ノービア様がそんなに慌てていらしては心が休みません。どうぞ仕事にお戻りください」 さすが侍女は強いなぁ。ノービア様は泣く泣く(?)公務に戻って行った。この際に私の部屋には厳重な警備が敷かれた。皆さん過保護だなぁ。と思いながら、眠ります。********** ブラボー! 私が願って止まなかったお二人の御子をアンリーヌ様がご懐妊という話をリリーから聞いた。 生きていてよかった。 この国に来て良かった。 麗しいお二人の御子です。間違いなく可愛らしい御子が生まれることでしょう。 え?婚前なのに? そんなことは問題ありません。御子の可愛らしさを見れば、ノープロブレムです。 その後、リリーからは悪阻に苦しむアンリーヌ様の様子などを逐一報告を受けていました。 これも可愛らしい御子を目に入れるための試練です。 頑張っていただきたい。 私に今できる事など、口で応援することだけなのです。 微力な自分が恨めしい。 安定期に入ったとの報告も受けました。 一安心ですね。 天気のいい時は、レアとリリー、それに数人の護衛騎士を伴って皇城の庭を散歩しているとの話を聞きました。 軽い運動をした方がお産にいいといいますからね。
そういうわけで、ノービア様も私が‘常識’ある人間としてくれるようで…。 それはいいのですが、今夜は初夜ですか? 結婚式までまだあるし、あと半年くらい? 私がそう思うのは侍女の二人が用意した夜着。 スケスケネグリジェ……。 せっかく、湯浴みしてあったまったのに寒いじゃない! と、抗議すると「どうせ脱ぐんだから変わらないんじゃないですか?」「ノービア様が温めてくれますよ?」 等との声が。 それってやはりそういうことデスカ? 緊張していると、二人の部屋を繋ぐ戸からノービア様が現れました。 ノービア様もガウンを纏っただけのようです。 髪をキチンと乾かしたのでしょうか? 髪が湿っているように見えるのですが、錯覚でしょうか?「アンリーヌ、気が急いでしまってガウンの合わせが逆だよ。アハハ!」 やはり、慌てて来たようで、キチンと髪を乾かしていないようです。 といっても、タオルで拭くだけなんですけどね。「髪が濡れているようですよ?このままでは風邪を引いてしまうわ」 と、侍女を呼ぶベルを鳴らそうとした手をノービア様に止められた。「いいんだよ、このままで」 そのままベッドまで運ばれてしまいました。 あれよあれよとなされるがまま、気が付くと夜が明けていました。「あれ?もう朝なの?」 私は掠れた声した出ません。「ああ、無理をさせてしまったね。水はこれかな?はい、どうぞ」 ノービア様に水を渡され、喉が潤いました。「アンリ、体は大丈夫?」「ちょっとダルイかな?というか、今アンリって」「昨夜、さんざんアンリって呼んでたよ?嫌かな?」 私は首が取れるんじゃないかという勢いで首を横に振りました。「うん。それじゃあ、これからはアンリって呼ぶね」「そう呼ばれるのは、亡くなったお母様以来で懐かしく嬉しいです」「それは良かった。陛下にはアンリーヌって呼んでもいいって言おう。私はアンリって呼んでるけどね」 そう言ってウインクをするノービア様を見て赤面してしまうのです。「今日は体もダルイみたいだし。侍女の二人にシーツ交換してもらってゆっくりと体をやすませるといいよ」 ******************* その日のノービア様はご機嫌だった。 公務の進み具合もいつもより早いんじゃないか?ただ眠そう。 はっ、もしや…。 二人は遂に…⁉
私はレアとリリーから男女の交わりについて勉強した。 ‘神が遣わせた奇跡’とかこの歳まで言っていたことが恥ずかしい。 なんでも、‘常識’という事だ。 私はすっと‘非常識’だった。という事か…。 アイリアでの扱いが免罪符のようになっているようだけれど、酷く常識外れだったことが忍ばれる。 過去の自分の言動を消すことができるなら消してしまいたい。 穴があったら入りたい! レアもリリーも「初心で可愛らしかったですよ」と慰めてはくれたけれど、恥ずかしい! そういえばノービア様はこの間、キ…キスをした時に「今夜はこのくらいにしておく」とか仰っていたような…。 それって……。 「次はもっと先まで」って事かしら? キャー‼‼ 陛下も孫の顔とか仰っていたし、そういうことよね? えーっと、二人が結ばれても出来ない時は出来ない。ということだったわよね。 あと、ハジメテのときは痛い。という事も言ってたわ。 二人ともどうして詳しいのかしら? 「侍女仲間の噂話とか自慢話を聞いていると、そうなるのですよ」「そうそう、あとは経験談かしら?」 二人とも私より若かったような…。 お相手は頼りがいのある殿方かしら? 遊びでお付き合いをするような殿方は信用できないわよ!******************* アンリーヌ様は閨教育を受けられただろうか? もともと賢い方だというのに、そっちの方の知識が欠落していたことに驚きを隠せない。 もう、あれから数日経っているし、十分な知識を手に入れていることだろう。 そして、過去の自分について恥じているのでは?と思う。 責任感の強いお方だからなぁ。 そんなアンリーヌ様をその包容力で包み込んでくれたらなぁと期待しているのですよ、すぐそこで公務をなさっているノービア様! ああ、ノービア様も美丈夫だなぁ。やはり二人の御子に想いを馳せてしまう。「なんだ?マイケルこっちばかりを見て。まさか、お前そっちのけでもあるんじゃないだろうな?」「大丈夫ですよ!私は100%恋愛対象は女性ですから」「俺のアンリーヌは渡さん。変な目で見るな」「変な目かどうかはわかりませんが、私にとってのアンリーヌ様は女神のような方ですから。神々しく、美しく、賢く、誰にでも優しく、素晴らしい女性です。殿下にこそ相応しい!」「うむ。まぁ?褒めると
「ナニナニ~?二人、アヤシイ~?」 皇帝陛下は好奇心が旺盛のようですが、そこには『皇帝の威厳』のようなものはありません。「陛下といえども、不躾ですよ」 誰もが言いにくいことでも、皇太子&実の息子であるノービア様は仰います。「そうですよね?アンリーヌ?」 そう言われると、微妙なんですけど? 不躾なのは事実かもしれないけれど、私のような立場で陛下に向かって『不躾』というのはなかなか不敬じゃないのかと思ってしまうのです。「ちょっと、アンリーヌにキスをしただけですよ」「なんだ~、孫の顔が見れるかと期待したのに~」「ご期待に沿えずに残念です。私も」 ふえ?最後に、「私も」とか言った?ノービア様が残念に思ったという事? 私の体温は上昇するばかりの朝食となりました。 結果、私はのぼせて倒れてしまいました。「さぁ、殿方はアンリーヌ様をあまり困らせないで下さいな」 のぼせて体温が上昇してしまった私を二人の侍女がテキパキと回収していきました。「全く、デリカシーがないのかしら?アンリーヌ様は初心でいらっしゃり、そこも魅力ですのに」「そうですよね!こんなのぼせてしまうような体温になるなんて。もう、初心で可愛らしい‼」 『可愛らしい』とは?セーラを形容するための単語ではないの?「美しいのに、初心で可愛らしい所が同居しているなんて…。創造主は随分と麗しい方をお作りになったものです」 えぇっ?!そこまで言う? 私は、アイリアにいた頃実家で酷い扱いだったんだけど? まあ…今は…ノービア様の婚約者ですけど。 そういえば、陛下が孫の顔とか言っていたわね。 結婚していない男女で子供が出来るわけないじゃない! 赤ちゃんというのは、神が遣わした奇跡よ。 そんなことは子供でも知っているのに、何を言っているのかしら? 婚約式を終えたばかりの私とノービア様の間で赤ちゃんが出来るなんてないのに。******************** ノービア様から「キスをした」という真実を思い返しただけでアンリーヌ様はのぼせて倒れてしまったと聞いた。 もしかしたら…もしかしたらだけど。いや、アンリーヌ様に限って。しかし、アイリアでの生活では考えられないこともないな。 アンリーヌ様は…閨教育を受けていないのではないのだろうか? 実践はないだろう。貴族令嬢の価値は貞淑さ
騎士に連行された男は『アイリア国王に金で雇われた』と言った。 アンリーヌ様がいなくなってアイリア王国はもう背に腹は代えられない状況まで追い詰められたんだなぁ。と思った。 国王に罪がない。わけではない。あの王子のワガママをコントロールできなかったのは国王・王妃だ。 いくら世継ぎが一人しかいないからといって、甘やかし過ぎたのだ。 それがアイリア王国国王の罪。 自分ではどうにもできないからといってアンリーヌ様を誘拐しようとしたのは悪手。 アンリーヌ様がアイリア王国に戻ったとして、以前のようになるとは限らないから。 騎士に連行された男の他にもアンリーヌ様を誘拐しようとした男はいたようだが、ノービア様が成敗してしまった。こちらはしばらく安静にしていないと、言葉を発することもできないので騎士寮の中で安静にしてもらっている。夜に逃げようとしても気配を感じた騎士が何とかするし、昼間でも夜勤のために寝ている騎士様も多数いるので、なんとかなる。******************** はあ、なんだか気が抜けるような感じがする。 ウフフッ、ノービア様が婚約者♡ こんなに幸せでいいのかな?「アンリーヌ、入るぞー」 ふぇ?初夜とかじゃないから、今夜は一人で婚約者ということを噛みしめて寝ようと思っていたのですが突然の来室です。 しかも、繋がってる扉から。「ノービア様、どうしたのですか?」「いや、アンリーヌが寂しがってないかと思って」 寂しいどころか、『ノービア様が婚約者』という事実を噛みしめていたところです。「私は平気です」「……そうキッパリと言われるのも傷つくなぁ。今夜はこのくらいにしておくか」 そうノービア様は言うと、私に軽くキスをしてまたあの扉から自分の部屋へ戻って行かれました。「あ、あ、あ、あ、き、き、き、き、きす・・・キス?」 今夜私は眠れるのでしょうか? 翌朝からは皇帝陛下・ノービア様と共に朝食を摂ることになっていた。 そのことはレアもリリーも知っていることだったので、いつもよりもちょっと早く起こされ、朝食を摂るために支度をすることになった。 なにしろ、朝から陛下と顔を合わせるわけだから、朝だというのに二人の侍女はなんだかやる気満々で私の支度をしてくれた。「ふぅ、今日はこんな感じでいいでしょう。毎日続くわけですから、気合いを入
滞りなく婚約式は終わった。 国内の重鎮は「これでこの国も安泰だな」とか言ってる。 国外の重鎮については、向こうがこちらの言語を話せることもあるが、逆に私が通訳のようなこともでき、国外の方にもお褒め頂いた。 アイリア王国の国王は覇気が失せていて、私が知っていた頃よりも年を取った印象を受けた。 王子のワガママ放題とその婚約者のワガママでウンザリしているんだろう。 これも自業自得というのだろうか? なにはともあれ、婚約式が終わった今!私は正式にノービア様の婚約者です‼ そういえば、ジャニス公爵閣下もいらしてましたね。国内の重鎮ですから。 ジャニス公爵閣下もなんだか元気がありませんでした。 『自称・ノービア様の婚約者』であったクラウス嬢を修道院に入れることになり、落ち込んでいるのでしょう。 それでも公爵家を継ぐ嫡男がいらっしゃるので、まだ元気な方です。 その方はまともに育ててほしいです。子育てが下手なのかしら? 一息つくとトイレに行きたくなるのが人情というもの。「ノービア様、少しトイレに行きたいので離れますね」 ずっとほぼくっついていたのです。 ほっと一息。トイレに行く途中で、私は見てしまった。 何者かが騎士様に連行されている様を! トイレから戻ってきて、ノービア様に報告です。「誰かわからない方が騎士様に連行されていました」「うーん、これはアンリーヌに言わないでおこうと思っていたんだが…」 私は、私の誘拐計画がある事をノービア様から聞きました。 なんて恐ろしい。「アイリア王国でしょうか?」「多分なぁ。この事で利があるのはアイリア王国だけだからなぁ。他の国だってアンリーヌみたいな賢く美しい女性を手に入れたいだろう。しかしだ!王子の独断で国外追放した女性だ。連れ戻したいんじゃないか?」 私はあの地獄のような日々には戻りたくない。「どうして私の意志を聞かないのでしょうね?」「そうだよな。アンリーヌ、戻りたいか?」「絶対に嫌です」 なんで妹に搾取されるような生活に好き好んで戻りたいと思うのよ! 陛下はそこら辺は調査したいないの? マイケルでさえ簡単に調査出来たことよ。王家の力をもってすればもっと詳しくわかるでしょうに。 見て見ぬふり?ダメダメじゃない? マイケルの調査によると、ラド侯爵家は乗っ取られただろう。そ